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トピックス

Web連載

出版営業K部長
カレー屋探訪記 12軒目

キレンジャーの末裔/著

2024.8.14

神保町・書泉グランデさんに伺ったあとは、無性にカレーが食べたくなります。

最近のカレーブームもあってか、神保町の有名カレー店は、12時過ぎに行くとどこも行列ができ、混み合います。



出版営業生活も長いが、カレー生活も長い私は、そんなことも考慮し、午前の営業を早々に切り上げ、AM11時30分頃にエチオピアさんへ到着…うおっ!? すでに行列がっ!?それでも、早目に行ったおかげで、15分程度の待ちで2階席へ案内されました。カレー大好きな大学生(たぶん)と小さなテーブル席で相席です。さて今日はどのカレーを食べようかな。



先に出てくる付け合せのジャガイモに塩をかけて食べていると、来ましたエビカレー…もとい、エビカリーが!今流行りのスパイスカレーとは一線を画したスパイシーなカレーにプリプリのエビ!待った甲斐がありますよ!ここのカレーは12種類のスパイスを煮込んでいるので薬膳的な要素もあります。辛さも70倍まで選べるので、激辛好きな人たちも満足でしょう。



最後にアイス(ランチタイムのみ)を食べて大満足!相席した大学生も満足そうです(たぶん)。



エチオピアのスパイスで身体が元気になったところで、午後の営業に行ってきます!



カレーライス専門店 エチオピア本店東京都
千代田区神田小川町 3-10-6

サイエンスナビゲータ―Ⓡ 桜井進
「世界は数学でできている!」

桜井進/著

2023.12.18

第4回 マイナス×マイナスはなぜプラスになるのか

「パパ、マイナス×マイナスがプラスになるのはどうして?」
子どもにたずねられて「そう決まっているの!」とは答えたくないものです。
1+1=2からはじまり分数どうしのわり算まで、小学校の算数は「そういうものだ」という捉え方はけっしてネガティブではありません。もしそれらすべてに生じる「なぜ」にこたえようすれば6年間では済まなくなるからです。
それが“学校の算数”です。できる人(考え抜ける人)を除いて、中学・高校の数学は“学校の数学”です。さて、“学校の算数・数学”を数学として捉えてみます。
「そうきまっているの!」ではないポジティブな答えを目指しましょう。

プラスとマイナスの数
まずは数の正と負についてその意味を考えてみます。0という基準があって0よりも大きい数を正の数、小さい数を負の数と決めることは誰もが納得するところです。
数は正か0か負のどれかです。数直線という図形を用意して、0の位置を決めるとその左側が負、右側が正となります。温度計は上下でその関係になっています。0度より上にいくほど温度が高く、下に行くほど低くなるよう目盛りがふってあります。

ニセコのスキー場の温度計写真:ニセコのスキー場の温度計

正負のたし算とひき算
さて、正負の足し算と引き算をこの数直線を使って考えてみます。7−3=4は(+7)+(−3)と考えて、「0から右に7だけ進み、次にそこから左に3進むと+4のところに行き着く」と考えることができます。−5+3なら(−5)+(+3)と考えて、「0から左に5だけ進み、次にそこから右に3進むと−2のところに行き着く」という具合です。これらの計算から正と負というのは向きを表していることがわかります。正負のたし算とひき算正負のかけ算
かけ算はこの向きについて考えるのです。(+3)×(+2)=6これは、(+3)×2×(+1)と考えるのです。はじめの(+3)×2は(+3)+(+3)のことですから(+6)になります。それに(+1)を掛けるとはその+6の向きを同じ向きにすること、つまりそのままの+6が答えとなります。

(+3)×(−2)は(+3)×2×(−1)と考えるのです。まず、(+3)×2=+6それに(−1)を掛けるとはその(+6)の向きを反対向きにすること、つまり−6が答えとなります。

(−1)を掛けると向きが反対向きになる」と考えるのです。この考え方を、(−3)×(−2)に適用してみます。(−3)×2×(−1)=(−6)これに−1を掛けるとその向きを反対向きにするので+6になるのです。
そもそも(+7)+(−3)の(−3)とは、右に3進もうとするのを逆に左に3進むことを表すことから、(−3)=(+3)×(−1)のマイナス(−1)には逆向きに進ませる働きがあるということです。

マイナス×マイナス=プラスの論理的整合性
数学には論理的整合性(logical consistency)があります。あるところで成り立つことは別なところでも成り立たなければなりません。

マイナス×マイナス=プラスの論理的整合性①
数と計算の世界には、次のような基本的なルールが見つかります。
〔1のルール〕1×a=a、a×1=a
〔0のルール〕0×a=0、a×0=0、a+(−a)=0、−a+a=0
〔分配法則〕a×(b+c)=a×b+a×c

これらのルールから(−1)×(−1)=1を導くことができます。
1+(−1) =0
(−1)×(1+(−1)) =(−1)×0 両辺に(−1)をかける
(−1)×1+(−1)×(−1)−1+(−1) =0 左辺は〔分配法則〕、右辺は〔0のルール〕
−1+(−1) ×(−1) =0〔1のルール〕から(-1)×1=-1=1
(−1)×(−1)=1〔0のルール〕


マイナス×マイナス=プラスの論理的整合性②
三角関数の計算の中から(−1)×(−1)=1を導いてみます。
〔2倍角の公式〕cos2θ=(1+cos2θ)/2
(−1)×(−1)=
cos180°×cos180°
=cos2180°
=(1+cos(2×180°))/2
=(1+cos360°)/2=(1+1)/2
=1


マイナス×マイナス=プラスの論理的整合性③
虚数iはi²=−1という性質をもつ数です。虚数の世界は三角関数と深く結びついています。次はその代表的な公式です。
〔ド・モアブルの公式〕(cosx+isinx)n=cosnx+isinnx

cosπ+isinπ=−1+i×0=−1
なので、
(−1)×(−1)=(cosπ+isinπ)2
=cos2π+isin2π
=1+i×0
=1


マイナス×マイナス=プラスの論理的整合性はもっと見つかります。そうなれば、「そうきまっている(−1)×(−1)=1」から「納得する(−1)×(−1)=1」になるでしょう。

桜井進 “X”(旧ツイッター)
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出版営業K部長
カレー屋探訪記 13軒目

キレンジャーの末裔/著

2024.11.25

紀伊國屋書店 新宿本店さんに伺ったあとは、無性にカレーが食べたくなります。

出版業界の方などは、「Kはモンスナックに行ったのか…今回はベタだな…」とお思いになったことと思います。しかし!意表を突いて同じ紀伊國屋ビル B1F のモンスナックさんより歩いて約2秒にある CLOVE(クローブ)さんへ向かったのだ!



以前、モンスナックがこの地で一時閉店していた際には、新参のクローブに行くことは何だかモンスナックを裏切るような気がして足を運ぶことはできませんでした。その後、モンスナックが再開すると、当然のようにモンスナックにしか行きませんでしたが、そう なると僕はいつクローブに行けばいいのか?…急にそんな考えに駆られたのです。そして意を決してクローブのドアを開けました!皆さんはそんな大げさなとお思いでしょうが、私にとっては一大事なのです。



さっそく人気メニュー“玉ねぎ丸ごとスパイシーカレー”を注文。代金は先払い。玉ねぎと何かのスパイスによる独特の風味!これは癖になりそうです!



次回から紀伊國屋書店 新宿本店さんに訪問する際はどちらのお店に行こうか悩みの種になりそうです。



CLOVE(クローブ)
東京都新宿区新宿 3-17-7 紀伊國屋ビル B1

サイエンスナビゲータ―Ⓡ 桜井進
「世界は数学でできている!」

桜井進/著

2024.10.8

第4回 サイエンスナビゲーターと数学の出会い
(プロローグ)

数と数字の現場は「いつ」「どこで」
2024年9月5日(木)22時35分
緯度35.685175°、経度139.752799°
「いつ」と「どこで」こそ、数と数字の現場です。
時間、暦、地図は個人のものではなく、基本的に国家が作るものです。国家は国境線とともにあり、そのエリアの暦を作るために天文台を作ります。
数と数字の現場である「いつ」と「どこで」を手にいれるための必要な技術が、小学校、中学校、高等学校で学ぶ数学です。
「いつ」と「どこで」を結ぶフィールドこそ我が地球です。
1秒は地球の自転周期の 86400分の 1、1mは北極から赤道までの子午線弧長の1000万分の1と定義されたことからわかります。どちらも「計算」することで初めて私達の前に現れてきました。
すべては私達が地球上で安心して便利に生きるためです。いったい、人類は正確な時計と精密な地図を手にするまで、どれほどの時間を費やしたのでしょうか。
時計と地図を作り上げるのに必要な目に見えない道具が「数」です。この数を操る高度な技(わざ)が数学です。
目に見えない数を操る技、数学もまた見えない存在です。それが数学の難しさの根源です。
私達人類は、目に見える時計と地図を作るために、目に見えない数学を同時に作ってきたということです。

サイン、コサイン、タンジェント
サイン、コサイン、タンジェントという言葉は、リズミカルな響きを持つ反面、学ぶにはいささか面倒でけっして容易ではありません。
これら三角関数こそ、星の軌道と地球を測るために二千年以上昔に考え出された言葉です。
地図を作るための道具──三角関数は、二千年の間に地図を作ることの枠を超えて数学の世界を開拓する強力な道具に進化してきました。
サイエンス、エンジニアリング、テクノロジーのあらゆる分野に必要とされる言葉になっています。

サイエンスナビゲーター、誕生
私は2000年にサイエンスナビゲーター(R)に変身しました。
当時、大学院に行きながら予備校で高校生に数学を教えるアルバイトをしていました。受験のためだけの数学を高校生に教えることに、得も言われぬ違和感を感じながら教壇に立っていました。
高校生は、サイン、コサイン、タンジェントと3年間付き合います。
1年生で三角比としてのサイン、コサイン、タンジェントに出会い、2年生で突如、三角比は三角関数に変身し、おびただしい数の公式が目の前を通り過ぎていきます。
そのせいで、ここで数学を学び続けることを断念する者も出るほどです。理系に進んだ3年生は、微分積分の中でさらなる三角関数との深い付き合いを余儀なくさせられます。
高校生は叫びます。「なぜこんなに三角関数を勉強しなくちゃいけないのか!三角関数は将来自分の人生になんの役に立つというのか!」と。
現場の数学の先生たちは生徒たちのこの問いにまじめに返答したくても、受験指導優先の現実がそれを許しません。ついぞサイン、コサイン、タンジェントの物語は語られることなく高校数学は終了します。
数学は受験のためだけにあるのではありません。にも関わらず、わが国では多くの子どもたちが数学の試験に翻弄される厳しい現実があります。
そのような状況におかれた高校生を目の前にして、サイエンスナビゲーターは誕生しました。授業で取り上げられることがほとんどない「数学とは何か」というテーマを語り始めたのです。数学を教えるのが教師、サイエンスナビゲーター(R)は数学を語ります。

ジョン・ネイピアとの出会い
数学は人によって作られ、そこには過去・現在・未来があること。数学とは物語であること。数千年の時を越えて世界中で1ページずつ真実だけが綴られてきた途方もない分厚い書物こそ数学なのだと。
人が紡ぎ出した壮大なる物語 -数学- を「教える」のではなく、「語る」ことの価値に気づいたのです。
「人と星とともにある数学」を語るサイエンスナビゲーターの誕生のきっかけは、対数の生みの親であるジョン・ネイピアとの出会いでした。
私が高校で対数を初めて習った時、その意義の不明瞭さに怒り心頭でした。2^3=8を3=log_28と書き換えることの目的が全く理解できませんでした。
そんなときタイミングよく1冊の数学書の中でネイピアの記述を見つけました。
ジョン・ネイピアは400年前、スコットランドの城主であったこと。ネイピアが考案した対数は、天文学者が行う天文学的計算を克服するためだったこと。その結果、大航海時代の船乗り(ナビゲーター)の命を救うことにつながったこと。そして、ネイピアは後半生の20年をかけて対数表を完成させたこと。
すべてが、私にとって青天の霹靂でした。私は予備校でネイピアのことを高校生に語り始めました。
ついには講演作品「ジョン・ネイピア対数誕生物語」に結実しました。舞台で、映像と音楽を駆使し、まるで映画のように数学を語る新しい講演スタイルができていったのです。
すべてはネイピアの人生が映画のように感動的だったからです。さらには、数学以外の世界を数学という軸で斬っていく「数学エンターテインメント」が誕生しました。

星こそ、数学の原風景
はたして現在、サイエンスナビゲーターⓇはこれまで1000回を越える講演を全国、海外で行っています。この数学エンターテインメントはジョン・ネイピア対数誕生物語から始まったのです。
サイエンスナビゲーターとは、科学の道先案内人という意味ですが、肝心の「数学」が入っていません。
それは数学が嫌いな人に対して「数学」という言葉を使いたくなかったからです。ナビゲーター(航海士)は、船乗りの命を救おうとしたネイピアへの思いを重ねた言葉だったのです。
ネイピアと対数に導かれたサイエンスナビゲーターⓇは、徐々に三角関数の重要性に気づいていくことになりました。発端はネイピアの対数が「三角関数の対数」だったことです。
三角関数の源流に流れる幾何学(geometry)とは、大地(geo)を測る(metry)を意味する言葉です。私たち人類の足下にある地球と天にある星こそが、数学の原風景だといえます。
三角関数とは、星の光に導かれて人類が手にした言葉だったのです。ネイピアによる三角関数と対数の関係は、数学者オイラーによってさらなる高見へと昇華することになりました。ネイピア数eの発見と微分積分学の建設です。
ところで、ネイピアとの出会いの前に私は三角関数に出会っていました。
関数電卓にsin31°の値が0.515038…とはじきだされる風景です。「なぜsin31°が計算できるのか」。小学校6年生の疑問は、その後私を実に様々な風景に運んでいってくれるものになりました。
数学の風景を人類が歩んできた数学の風景に、サイエンスナビゲーターが眺めてきた風景を重ね合わせてこれからも語っていきます。

桜井進 “X”(旧ツイッター)
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Web連載

出版営業K部長
カレー屋探訪記 7軒目

キレンジャーの末裔/著

2023.10.26

星野書店 近鉄パッセ店に伺ったあとは、無性にカレーが、食べたくなります…。

半年ぶりの名古屋出張です。夕方家路を急ぐ人々をよそに、迷路のような名古屋駅の地下街(ミヤコ地下街)のカレースタンド、タンドゥールさんへ。出張直前にSNSで発見しました!

店の看板

カウンター席だけの店内では、女性が一人で切り盛りしています。カレーメニューはインドカレー一種のみですが、リクエストすれば辛さを調整してくれるとのこと。今回は中辛を頼みました。

メニュー

グレイビーボート(魔法のランプみたいなやつ)に入って提供されるカレーは水を使わず大量の玉ねぎとトマト&スパイスで作られた独特の逸品で他には味わえないカレーかも?これはまた食べたくなります!

カレー
カレー

どこへ言っても地下街が小綺麗になってしまっていて、こちらのような歴史を感じさせるお店が少なくなっているように感じます!次回の出張でも必ず伺うのでいつまでも頑張って欲しい!

お店の外観
タンドゥール
愛知県名古屋市中村区名駅4-9-10 ミヤコ地下街

サイエンスナビゲータ―Ⓡ 桜井進
「世界は数学でできている!」

桜井進/著

2023.11.13

第3回 関孝和と徳川吉宗に認められた天才数学者 建部賢弘

2002年12月6日 π計算世界記録更新1兆2411億7730万桁
円周率の計算において初の1兆桁オーバーの世界記録は、東京大学金田康正チームによって達成されました。東大に納入されたばかり当時世界最速スーパーコンピュータ、日立SR8000の活躍によって樹立された記録です。当時はテレビ、新聞などのメディアでこの話題で持ちきりでした。

以来、日本がπの計算世界記録を更新し続けました。2009年、筑波大学の金田の弟子、高橋大介がスーパーコンピュータ「T2K筑波システム」によって2兆桁。2013年、近藤茂が自宅に設置した自作PCによって12兆桁。その後2人の日本人以外によって世界記録が更新された後、2019年3月14日、Googleエンジニアの岩尾エマはるかが31兆4159億2653万5897 桁(π=3.1415926535897…に合わせた記録)の世界記録を達成。彼女の師は筑波大学の高橋大介です。

まさしくこれらの軌跡はπ計算の伝統といえるものです。π計算の世界記録を支えるのが「計算機大国」日本です。電卓をはじめ日本のスーパーコンピューターは世界を席巻しています。

日本人と算盤(そろばん)
そしてもう一つ世界が認める日本の計算機が算盤(そろばん)です。

日本ではひと昔前のそろばん塾の勢いはなくなってしまいました(ちなみに現在でもそろばん塾は「現代版そろばん塾」として進化しています)が、アメリカや東南アジアなどでsorobanは爆発的ブームになっています。

電子計算機とそろばんはそもそもが日本で発明されたものではありませんが、日本は独自の計算機を作りあげることに成功してきたのです。

なぜ日本人は計算と計算機にこだわり続けたのでしょうか。そのヒントを江戸時代に見つけることができます。

そろばんを使って円周率を計算し、日本の数学の源流を作った数学者がいました。算聖・関孝和(1640ごろ-1708)と、その高弟、建部賢弘(たけべかたひろ、1664-1739)です。

江戸の人々は数学教科書『塵劫記』をテキストにして、数の読み方、そろばんの使い方、度量衡や金銭など実用的計算、そして数学パズルをマスターしていきました。塵劫記』を学んだ中から関孝和のような第一級の数学者も生まれていったのです。

建部賢弘は将軍吉宗のブレイン
建部賢弘は12歳で数学者関孝和の弟子となり、メキメキと頭角を現し、徳川家三代の将軍(家宣、家綱、吉宗)に仕えました。

建部は師関孝和の研究を助け、多くの業績を残しました。中でも関孝和と兄建部賢明との3人で当時の数学の集大成を目論んだ『大成算経』全20巻は、28年かけて完成させた大作です。

西洋数学と隔絶した中で生み出された独創的な考え方には驚かされます。西洋の天文学に深い関心を持つ8代将軍吉宗の命を受けた建部は、天文暦法の顧問の役も果たしました。

日本地図作成では、吉宗の命により建部自ら測量を指揮し『享保日本図』と呼ばれる日本地図を完成させました。また円周率の研究も精力的に行い、41桁まで正確に求め、師である関孝和の記録を超えました。和算史上最初の円周率を求める公式は、建部賢弘によって導かれました。

『算歴雑考』は日本初の三角関数表
我が国初の三角関数表は建部賢弘によって作成され、『算歴雑考』(年紀不明)として出版されました。それを可能にしたのが先に述べた円周率の計算です。

自ら計算した円周率の値を用いて、1度毎に弧の長さと弧と弦の間の距離の値を小数点以下11桁まで計算した数表を作成しました。

現代数学で表すならば、正弦(sinα)、正矢(1−cosα)の1度ごとの値を計算したことになります。建部は1度を1限と呼びました。

地球の公転周期すなわち1年の長さが「三百六十五度二十五分」(365日と4分の1日)だと、その4分の1である1象限が「九十一度の外三十一分少の余数」と端数がでるので、暦のためには「1象の度」を「90限」としたほうがよいと『算歴雑考』の中で提案しています。

現代に生きる江戸の数学スピリット
江戸時代に日本で独自に発展した数学「和算」。

江戸の数学者は「和算家」と呼ばれ、和算は日本中に広まりその中から関孝和、建部賢弘といった一流の和算家が生まれました。

彼らのおかげで大きく発展していった和算ですが、明治時代になって西洋の科学や技術、特に軍事技術を輸入するために明治政府は和算から西洋数学──洋算──への転換を決定します。

和算家たちは洋算の本を日本語に翻訳し、洋算の教科書を作る快挙を成し遂げました。江戸時代に和算家が高みを目指して発展してきたからこそ、西洋数学の価値を見抜くことができたといえます。

そこから日本の算数・数学教科書の歴史が始まり、今日に至ります。かくして百年以上かけて作られてきたわが国の算数・数学の教科書は、世界に誇れるクオリティを持つまでに発展してきました。このことが現在の日本が数学大国であることとπ計算のトップランナーにつながっています。

電源を必要としないそろばんは数十桁という数値計算を可能にします。それも四則演算をはじめ平方根、立方根まで計算できる汎用性を持ち合わせています。

その点では現在の電卓はそろばんの足下にもおよびません。関や建部ら江戸の数学者は、数値計算の限界に挑み続けていたのです。その江戸の数学スピリットこそが現代にまで脈々と受け継がれ、πの計算世界記録に結びついたのではないでしょうか。

日本以外の国の人々(いや現代の日本人でさえ)からすれば、なぜ日本人はπを何兆桁までも計算するのかと疑問に思うかもしれません。関孝和の時代から300年、日本は数学とともに我が国の文明を築いてきました。いまこそ江戸の数学スピリットを多くの日本人が知るときです。

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